「会社紹介の動画を作りたい。何分くらいがいいですか?」。動画制作の相談で、最初に聞かれる質問です。答えは「どこで、誰に見せるかで決まる」なのですが、それでは相談にならないので、この記事では用途別の目安の尺・構成・費用の考え方を、2015年から商工会議所・商工会で動画制作のセミナーを続け、店舗・建設・製造・士業などのPR動画を制作してきた経験から具体的に書きます。
先に結論を言うと、会社の顔になる紹介動画は60〜90秒。採用動画は2〜3分。SNSの縦型は15〜30秒。展示会や店頭で流すなら30〜60秒のループ。そして「1本で全部をまかなう」のをやめることが、一番大きなコツです。
この記事の要点
- 尺は「置き場所」で決まる。ホームページのトップは60〜90秒、採用は2〜3分、SNS縦型は15〜30秒、展示会・店頭は30〜60秒のループ
- 視聴者は最初の5秒で見続けるかを決め、横型は1分を超えると半分が離脱する。「言いたいことを全部入れる」と、全部伝わらない
- 構成の基本は「誰のための、何の会社か」を最初の10秒で言う → 現場・人 → 根拠(数字・実績・お客様) → 次の行動(電話・来店・応募)
- 費用は尺に比例しない。決めるのは撮影日数・カット数・出演者・ナレーション・字幕。3分のPR動画が30分の研修動画より高いことは普通にある
- 1回の撮影で「横の本編」+「縦の短尺」を同時に撮るのが、一番費用対効果が高い
- 作って終わりにしない。YouTube・HPトップ・Googleビジネスプロフィール・SNS・名刺QR・展示会に同じ動画を置く
1. 尺の前に決めること — どこで、誰に、何をしてほしいか
「何分がいいか」は、次の3つを決めると自動的に決まります。
- どこで見るか:ホームページのトップ/求人サイト/Instagram・TikTok・YouTubeショート/展示会のモニター/商談で営業がタブレットで見せる/採用説明会のスクリーン
- 誰が見るか:初めて会社を知った人/求人を探している人/すでに取引のある相手/商談相手の決裁者
- 見たあと何をしてほしいか:電話・問い合わせ/来店・予約/応募/「この会社なら安心」と思って商談を進める
たとえば「ホームページのトップで、初めて来た人に、問い合わせしてほしい」なら、答えは60〜90秒です。初めての人は長く見ない、トップページは会社の顔、問い合わせへ誘導する一言が要る。「採用説明会で、応募を迷っている学生に、1日の仕事を知ってほしい」なら2〜3分。会場で座って見てくれる人には、少し長くても伝わります。
2. 用途別の目安 — 尺・縦横・構成
| 用途 | 尺の目安 | 縦横 | 見る人の状況 | 構成の軸 |
|---|---|---|---|---|
| 会社紹介 HPトップ・名刺QR | 60〜90秒 | 横 | 初めて会社を知った。長くは見ない | 誰のための何の会社か → 現場と人 → 根拠 → 問い合わせへ |
| 店舗のPR HP・ビジネスプロフィール | 30〜60秒 | 横 (縦版も) | 行くかどうか決めかけている | 店の空気感 → 看板商品 → 店主の顔 → 場所・営業時間 |
| 採用動画 求人サイト・説明会 | 2〜3分 | 横 | 応募を迷っている。じっくり見る | 1日の仕事の流れ → 先輩の声 → 職場の雰囲気 → 待遇は文字で |
| SNSの縦型 Instagram・TikTok・ショート | 15〜30秒 | 縦 | 流し見。最初の1秒で止まるか | 1本1テーマ。商品1つ、職人の手元1つ、お客様の声1つ |
| 展示会・店頭 ループ再生 | 30〜60秒 | 横 | 音なし。歩きながら目に入る | 字幕とテロップで成立させる。繰り返しても疲れない構成 |
| 商談・提案 営業が見せる | 2〜4分 | 横 | 相手は座っている。質問が出る | 課題 → 自社のやり方 → 事例と数字 → 体制 |
| 研修・マニュアル | 必要なだけ(5〜30分) | 横 | 学ぶために見る。章立てがあれば長くてよい | 目次 → 手順ごとに章 → 要点のまとめ |
この表で一番大事なのは、同じ会社でも用途が違えば別の動画だということです。3分の採用動画をHPのトップに置くと、初めての人は30秒で離れます。逆に60秒の会社紹介を採用説明会で流すと、「仕事の中身が分からない」と言われます。
3. なぜ短くするのか — 視聴の実態
横型の動画は、再生開始から最初の数秒で「見続けるか」が決まり、1分を超えるあたりで視聴者の半分近くが離脱するのが一般的な傾向です(YouTube の視聴者維持率のグラフを見ると、どの会社の動画でもほぼ同じ形になります)。縦型のショート動画はさらに短く、最初の1秒で止まらなければスワイプされます。
だから「言いたいことを全部入れた3分」は、最後まで見られず、結果として一番大事なことが伝わりません。短い動画は「削る」のではなく「絞る」。この動画では1つだけ伝える、と決めると、60秒でも十分に濃くなります。
4. 構成の型 — 60〜90秒の会社紹介
相談の現場で一番多い「HPトップに置く会社紹介」の型です。制作会社に頼むときも、この順で要望を伝えると話が早くなります。
- 0〜10秒:誰のための、何の会社か。現場の一番いい画(職人の手元、店の活気、製品が動く瞬間)に、1行のテロップ。AIOの記事で書いた「自己紹介の1行」をそのまま使います。社名ロゴから始めない
- 10〜40秒:現場と人。仕事をしている姿、代表者または現場の人の顔と声。「こだわり」と言葉で言うのではなく、こだわっている手元を見せる
- 40〜60秒:根拠。創業〇年、施工〇件、お客様の顔と一言、資格・受賞。数字はテロップで
- 60〜90秒:次の行動。「まずはお電話を」「お気軽に来店ください」と、電話番号・店名・場所。最後の画は、覚えてほしい顔か看板
テロップと字幕は、音なしで見られる前提で入れます。スマホの視聴の多くは音を出していません。
店舗PRで実際にあった例
- 創業50年の鉄板焼き店(神戸市):「新規客を呼ぶ」ではなく、昔馴染みのお客様に店主の今の姿を届ける、と目的を絞った。店主の手元と顔を中心に、短い尺で
- ボクシングジム:入会を迷っている人が「雰囲気」を知りたい、に絞り、トレーニング風景と会員の表情で構成。公開2か月で4万回再生
- 養蜂場:店舗リニューアルに合わせた初めてのPR動画。採蜜の現場から店頭までを1本に。HPトップとGoogleビジネスプロフィールの両方に配置
5. 費用は「分」で決まらない — 見積が動く要素
「1分いくら」の相場表はあてになりません。費用を動かすのは次の要素で、尺はその結果にすぎません。
| 要素 | 費用が上がる例 | 抑える工夫 |
|---|---|---|
| 撮影日数 | 複数拠点、繁忙期と閑散期の両方、季節の画が要る | 1日に収まる絵コンテにする。「この季節の画」は既存の写真で補う |
| カット数・場所 | 社屋・工場・現場・店舗を全部回る | 場所を2つに絞る。移動は費用 |
| 出演者 | 複数の社員のインタビュー、お客様の出演調整 | 代表者1名+現場1名。お客様の声は文字と写真で |
| ナレーション・音楽 | プロのナレーター、楽曲のライセンス | 代表者の肉声とテロップで構成。音楽は権利処理済みの素材 |
| 字幕・多言語 | 日英字幕、複数言語 | 日本語字幕は必須。英語は本当に必要な用途だけ |
| 空撮 | ドローン撮影(許可・申請を含む) | 社屋の全景が本当に要るかを考える。要る場合は国家資格を持つ操縦者に(当社は二等無人航空機操縦士) |
| 企画・構成 | ゼロから企画を起こす、台本を何度も直す | この記事の型と「自己紹介の1行」を先に用意して渡す |
だから、3分のPR動画(撮影2日・カット数多い・出演調整あり)が、30分の研修動画(会議室で固定カメラ1日・字幕のみ)より高くなることは普通にあります。見積を取るときは「何分で」ではなく、「どこで使う、誰に見せる、撮る場所はここ、出るのはこの人」を伝えてください。
6. 一番効率がいい作り方 — 1回の撮影で、横の本編と縦の短尺を撮る
「会社紹介の60秒」と「SNS用の縦型15秒を3本」を別々に発注すると、撮影が2回になります。同じ日に撮れば、縦型は数カット足すだけです。当社では、撮影前の絵コンテの段階で次の3つを決めておきます。
- 横の本編(60〜90秒):HPトップ・YouTube・名刺QR・Googleビジネスプロフィール用
- 縦の短尺(15〜30秒)×2〜3本:Instagram・TikTok・YouTubeショート用。商品・手元・人、それぞれ1テーマ
- 静止画の切り出し:動画のカットから、HPやSNSの写真として使えるものを数枚
縦型は横の動画から切り出すのではなく、縦で成立する構図で別に撮ります。人物を大きく、文字が入る余白を上下に残す。これを撮影当日に意識するだけで、SNS用の動画の出来が変わります。
撮り方について(少し専門的に)
当社は SONY FX30 などで S-Log 撮影し、DaVinci Resolve でカラーグレーディングをしています。難しそうに聞こえますが、目的は単純で、「店の照明の色」「工場の蛍光灯の緑かぶり」「夕方の現場の暗さ」を、あとから見た目どおりに整えるためです。会社紹介の動画は、画の色が会社の印象そのものになります。ここはスマホ撮影との差が一番出るところです。
7. 置き場所 — 作って終わりにしない
完成した動画が YouTube に1本上がって、その後なにも起きない。これが一番多い失敗です。1本の動画は、最低でも次の場所に置きます。
- ホームページのトップ:ファーストビューか、その直下に埋め込み。自動再生・音なし・字幕ありの設定にすると、滞在時間が伸びる
- YouTube:公開または限定公開。タイトルと説明文に、お客様が検索する語句と自己紹介の1行を入れる。AIもYouTubeの説明文を読みます
- Googleビジネスプロフィール:投稿と写真・動画欄に。地図検索から来た人が、サイトに行く前に見る
- SNSのプロフィール固定・ハイライト:縦型の短尺を固定表示
- 名刺・会社案内・チラシのQRコード:商談のあとに見てもらう
- 展示会・店頭のモニター:音なしループ版
- 採用:求人サイトの掲載枠、説明会のスクリーン、内定者への案内
置き場所を先に決めてから作る、が順番です。置き場所が決まれば、尺と縦横と字幕の要否が決まり、見積も決まります。
8. 進め方 — 相談から公開まで
- 目的と置き場所を決める(相談30分):誰に、どこで、何をしてほしいか。ここで尺と本数が決まる
- 自己紹介の1行と、見せたい画の候補:会社側で用意するのはこれだけ。台本は制作側で起こす
- 絵コンテ:カット順・テロップ・出演者・撮影場所を1枚に。ここで「入らないもの」を落とす
- 撮影(1〜2日):横の本編と縦の短尺を同じ日に。出演者は普段の服装・普段の仕事
- 編集・グレーディング・字幕:初稿を見て、直しは2回まで、と決めておくと長引かない
- 公開と配置:YouTube・HP・Googleビジネスプロフィール・SNS・QRに一斉に置く。公開後1か月の再生数と、問い合わせの変化を見る
相談から公開まで、1〜2か月が目安です。繁忙期の画が欲しい、イベントを撮りたい、という場合は、その時期から逆算して相談してください。
よくある質問
長い動画を1本作って、短い動画はそこから切り出せばいいですか?
切り出しはできますが、「切り出せばいい」前提で長い方だけを設計すると、短い方が弱くなります。縦型のショート動画は、最初の1秒で止めてもらう画と、縦画面で成立する構図が要ります。横で撮った3分の動画の一部を縦に切ると、人物が小さく、文字が入らない。おすすめは、撮影の段階で「横の本編」と「縦の短尺」の両方を撮る計画にすることです。同じ撮影日に数カット足すだけで、別に撮り直すより安く済みます。
社長が出演したくないと言っています。出なくても作れますか?
作れますが、出た方が効果は高いです。中小企業の会社紹介で視聴者が一番知りたいのは「どんな人がやっている会社か」で、それを一番短く伝えられるのが代表者の顔と声です。どうしても難しい場合は、現場のスタッフや職人、お客様の声を中心に組みます。ナレーションと文字だけの動画は、作りやすい反面、どの会社でも作れる内容になりやすいので、人が映る場面を1つは入れてください。
スマホで自分たちで撮るのと、プロに頼むのは、何が違いますか?
違いは画質より「設計」です。何を、誰に、どの順で見せるか。その設計があれば、スマホで撮った動画でも十分に使えます。実際、商工会議所・商工会のセミナーでは、スマホと無料アプリで縦型のPR動画を作る方法を教えています。一方、会社の顔になる60〜90秒の紹介動画や、求人サイトに載せる採用動画は、照明・音声・カラーグレーディングの差が信頼感に直結するので、プロに頼む価値があります。「SNSの日常投稿は自分たちで、会社の顔になる1本はプロに」が、費用対効果の良い分け方です。
動画の費用は、長さで決まりますか?
決まりません。費用を決めるのは撮影日数とカット数、出演者の調整、ナレーション・音楽・字幕の有無、そして企画と構成の手間です。3分の会社紹介は撮影が2日・カット数が多く、30分の研修動画は固定カメラ1日で済むことがあります。「何分で、いくら」という相場表より、「何を撮るか」を先に決めた方が見積は正確になります。
作った動画は、どこに置けばいいですか?
YouTube に公開(または限定公開)し、ホームページのトップに埋め込むのが基本です。加えて、Googleビジネスプロフィールの投稿・写真欄、SNSのプロフィール固定、名刺や会社案内のQRコード、展示会のモニター、採用なら求人サイトと説明会。1本を1か所に置いて終わり、が一番もったいない使い方です。置き場所を先に決めてから、尺と縦横を決めます。
筆者は2015年から商工会議所・商工会で動画制作セミナーの講師を務め、2020年から事業者のPR動画・採用動画を制作。2025年から京都芸術大学 映像コースで映像制作を学んでいます。本記事の尺の目安は、筆者の制作経験と YouTube の視聴者維持率の傾向にもとづくもので、業種・媒体によって変わります。制作実績は制作実績をご覧ください。